食べられない」など胃腸の働きの低下を感じてしまうことが多くあります。食欲の低下によるエネルギーやビタミン・ミネラル類の摂取不足は、運動パフォーマンスに悪影響を及ぼします。 今回はスポーツ活動時に意識するポイントとして、「1日に必要なエネルギー量」「食事の内容(質)」、そして「食欲をアップさせるひと工夫」について紹介します。 スポーツ活動時の運動パフォーマンスを向上させるためには、連日の練習やトレーニングに対応できる丈夫な体づくりや練習後の疲労から早く回復する体づくりが重要であり、食事や補食からの十分なエネルギー補給が鍵となります。つまり、栄養補給や食事内容を意識することで体には下記に示す3つのメリットが生まれ、スポーツ活動時のパフォーマンスが向上します。
- トレーニングや練習のパフォーマンス向上
- 怪我の予防、怪我の回復の促進
- 疲労回復の促進
- 健康の維持増進
しかし、「朝寝坊して朝食が食べられなかった」など欠食の習慣化や、暑さなどから食欲低下による偏った食事を続けるとエネルギーやエネルギー生成に必要な栄養素の慢性的な摂取不足状態が続き、「バテ」症状が生じます。この「バテ」症状を予防改善するために、自身の「1日に必要なエネルギー量(=推定エネルギー必要量)」が約何kcalなのかを把握しておくことが重要となります。
1日に必要なエネルギー量を把握する
■推定エネルギー必要量の算出
「推定エネルギー必要量」は、私たちの基礎代謝量(日常活動を含まず、生命維持のために最低限必要なエネルギー量)と深く関っています。基礎代謝量は除脂肪量との相関が高く、トレーニングの実施状況により除脂肪量に差が見られ、その実施状況によってどの算出方法が適しているかを適時判断して選択する必要があります。
「推定エネルギー必要量」の算出方法には2つあり、小・中学生や定期的な筋力トレーニングを行わない者を対象にする「日本人の食事摂取基準による推定方法(図1)」と、定期的に筋力トレーニングを繰り返し行うスポーツを生業とされている方(アスリート)を対象にする、国立スポーツ科学センター(JISS)での研究から提示された「JISS式による推定方法(図2)」があります。
①「日本人の食事摂取基準による推定方法(図1)」
対象:小中学生や定期的な筋力トレーニングを行わない者。
例1)サッカー部に所属している10歳男子、体重35kgの場合
→35kg×37.4×1.85+40=2,461kcal≒2,450kcalとなる。
②「JISS式による推定方法(図2)」
対象:定期的に筋力トレーニングを繰り返し行う方(アスリート)
例2)サッカークラブに所属している20歳男子、体重70kg体脂肪率12%の場合
→70kg×12%÷100=8.4kg 70kg-8.4kg=61.6kg 28.5×61.6kg×2.00=3,511kcal≒3,500kcalとなる。
食事の内容(質)を整える
5つのカテゴリーを揃える
食事は、「①主食」「②主菜」「③副菜」「④果物」「⑤牛乳・乳製品」の5つのカテゴリーに分類することができます。
「5つのカテゴリー」には多く含まれる栄養素が異なるため、体内での働きも異なります(図3)。
日々の食事で「5つのカテゴリー」を揃えることで、1日に必要なエネルギーや各種栄養素が摂取され、スポーツ活動中の運動パフォーマンスが向上します。
つまり、バテない丈夫な体づくりや運動後の疲労回復を早めるためには、「5つのカテゴリー」を日々の食事で意識し、揃えることが重要です。
5つのカテゴリーの内容と働き
①主食【ご飯・パン・麺類・シリアル類】
「主食」は炭水化物を多く含みます。安静時・運動時のエネルギー源となるため、不足状態が続くとだるさや疲労回復が遅れるなどの症状がみられます。また、スポーツ活動中では持久力・集中力の低下や運動後の疲労回復が遅れます。
運動パフォーマンスを向上させるためには、主食を1日量摂取することが重要となります。下記図4は、各方式により算出した推定エネルギー必要量別にみた「主食」=ご飯の目安量(1日あたり)を示していますので、ご自身が1日に必要なご飯量はどれくらいかを確認してみましょう。ご飯量が1日の食事で食べ切れる場合は問題ありませんが、食事のみで不足する場合は、「補食」を活用するとよいです。補食については、後述(「補食の活用」)にて紹介しておりますのでご参照ください。
②主菜【魚・肉・卵・大豆食品】
「主菜」はたんぱく質を多く含みます。丈夫な体を作る骨や筋肉をはじめとする各臓器の材料となるため、成長期やトレーニングを行う方は必要量摂取することが重要となります。不足状態が続くと、トレーニングを行っても筋肉量が増えず、怪我が起こりやすくなります。図5は、トレーニング内容別たんぱく質必要量とたんぱく質を多く含む食品一覧を示しています。1日に必要な「主菜」量にあわせて、「主菜」の偏り(肉ばかりになっていないか? 魚や大豆食品を毎日食べているか?)も確認してみましょう。
③副菜【野菜・芋類・海藻・きのこ類】
「副菜」は食物繊維や各種ビタミン・ミネラルを多く含みます。神経やホルモンの働きを正常に保ち、体の調子を整える作用があります。食物繊維や各種ビタミン・ミネラルの不足状態が続くと「常にだるい」「疲れがとれない」「便秘が続く」「風邪をよくひく」など体調不良が起きやすくなります。
図6で示すとおり「副菜」はサラダ・酢の物など「生のまま」料理のほか、味噌汁・野菜炒めなど「加熱した」料理のどちらで摂取しても構いません。食べ方を工夫しながら毎食食べましょう。
④果物【果物(100%果汁ジュースも含む)】
「果物」は炭水化物やビタミンを多く含みます。
炭水化物やビタミンが不足した状態が続くと、「常にだるい」「疲れがとれない」「風邪をよくひく」など体調不良が起こりやすくなります。
また、果物はエネルギー源にもなるためスポーツ活動中の「補食」としても活用しましょう。
⑤牛乳・乳製品【牛乳・ヨーグルト・チーズ】
「牛乳・乳製品」はカルシウムやたんぱく質を多く含みます。カルシウムは骨の合成を促進する働きがあり、不足状態が続くと、骨折をはじめとする骨の病気が起こりやすくなります。
補食の活用
欠食習慣がある方や一度にたくさんの量を食べられず、1日に必要なエネルギー量を3度の食事で食べきれない方は、空腹感を感じるタイミングに「補食」を活用してエネルギー量を補給しましょう。(図7参照)
食欲アップのひと工夫
胃腸の働きの低下から食欲が低下し、のど越しがよい麺類、スープなど汁もの中心の食事や、アイスクリームやジュース類などを単品で手軽に済ませる機会が増えると、エネルギーや各種栄養素(特にビタミンやミネラル類)の摂取不足が起こり、体内でのエネルギー生成が遅れ、疲労回復も遅れます。
ここでは、食欲が低下した場合の食欲アップのひと工夫について紹介します。(図8及び、食欲アップレシピ参照)
- ★ 味付け(調味料)に変化をつける
...酸味成分:クエン酸や香辛料に含まれる辛味成分は胃腸の働きを活発にする
例)梅干し・柑橘系果物(レモン・柚子)・酢・カレー粉・唐辛子・マスタード・わさび - ★ 香りや匂いがきわだつ食材を活用する
...香味野菜やハーブの香りや匂いで食欲を増す。香味野菜は麺類や冷奴などの薬味として活用する場合が多い
例)しそ・生姜・葱・みょうが・にんにく・バジル・ミント - ★ 旬の食材を活用する
- ★ 彩り鮮やかに盛り付ける
...彩り鮮やかに盛り付けられた料理を見て、視覚から食欲アップをはかる - ★ スープや味噌汁など汁もの、温めたドリンク類を飲む習慣をつける
- ★ よく噛んで食べる
髙木 久見子(タカギ クミコ)
【管理栄養士】【公認スポーツ栄養士】
【所属】
公益財団法人横浜市スポーツ協会
横浜市スポーツ医科学センター内科
【職歴】
甲子園大学栄養学部栄養学科 卒業
大阪大学内科学講座老年・総合内科学
堀川病院
関西医科大学枚方病院健康科学センター
横浜市スポーツ医科学センター
【サポート状況】
■日本パラリンピック委員会
医・科学・情報サポートスタッフ
■日本スケート連盟フィギュアスケート
医科学スタッフ