肥満と減量(理論編) 知っておきたい肥満と減量の基礎知識
【理論1】肥満とメタボリックシンドローム
「肥満」は、高血圧などの生活習慣病の発症や運動能力の低下を引き起こす原因になり、日常生活を健康で快適に過ごしていく上で障害となります。寝たきりにならないで寿命を延ばす上でも「肥満」を改善しておくことが重要です。それゆえ、健康診断などで、「肥満」または「肥満症」と診断された方は、減量によって体重を適正なレベルまで落とすことが勧められます。 本頁では、肥満と減量、減量における運動の意義、正しい減量方法などに関する最新情報をお伝えしていくとともに、横浜市スポーツ医科学センター(以下、スポ医科と略す)で定期的に開催されている減量教室の効果についても適宜ご紹介していきます。
1.肥満とは?
肥満とは、体重に占める体脂肪の割合(体脂肪率)が多い状態(「体脂肪が過剰に蓄積した状態」)のことをいいます。肥満度の判定は、従来からBMI(ボディー・マス・インデックスの略で"体格指数"と訳します)が健康診断などで多く用いられてきました。このBMIは、体重(㎏)を身長(m)の二乗で割ることで計算し、統計上、病気にかかるリスク(有疾患率)がもっとも低いとされる22(kg/㎡)を標準値としています。BMI25以上が「肥満」、BMI18.5~25までを普通体重、BMI18.5未満を低体重または"やせ"と判定します(肥満度については下表を参照)。肥満度が高くなるほど有疾患率は増加しますが、"やせ"の場合にも有疾患率が高くなることが分かっています。
【BMIの計算方法】
- 体重が70㎏で身長が170cmの人の場合 70(kg)÷〔1.7(m)×1.7(m)〕≒24.2(kg/㎡) ⇒ 普通体重
- 体重が80kgで身長が170cmの人の場合 80(kg)÷〔1.7(m)×1.7(m)〕≒27.7(kg/㎡) ⇒ 肥満度Ⅰ
2.「肥満」と「肥満症」の違い
しかしながら、BMIが25を超えていて「肥満」と判定される人の中にも、血圧や血清脂質(中性脂肪値、善玉コレステロール値)、血糖値などには全く異常が見られない方もいます(これらが重複して異常が見られる場合がメタボリックシンドローム、略して"メタボ"です)。すなわち、BMIによって判定される「肥満」は、単に標準体重をオーバーしていること(過体重)を意味するもので、必ずしも病的な状態を表すものではありません。病的状態としての「肥満症」は次のように定義されています。「肥満症とは、肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するかその合併が予測される場合で、医学的に減量が必要な病態をいい、疾患単位として取り扱う」(「日本肥満学会」の定義から引用)。「肥満」があって、高血圧、脂質異常、耐糖能異常(糖尿病)を伴えばメタボリックシンドロームであり、「肥満症」と診断されます。尚、「肥満症」にはメタボリックシンドロームなどの内科的疾患だけでなく、変形性膝関節症や腰痛症などの骨関節障害(ロコモティブシンドロームの頁を参照)も含まれており、減量は"メタボ"と"ロコモ"の両方を予防・改善していく上で必要不可欠といえます。
3.「内臓脂肪型肥満」と「皮下脂肪型肥満」
近年、「肥満」の程度(BMI)や体脂肪率が同じレベルであっても、それが体のどの部位に付着しているのか(体脂肪分布)によって、二つに分類されています。一つは、腹腔内(お腹の内臓周辺)に脂肪が過剰に蓄積した状態でこれを「内臓脂肪型肥満」といい、もう一つは皮下に多く脂肪が蓄積した状態でこれを「皮下脂肪型肥満」といいます。これらは、前者を「リンゴ型肥満」または「上半身型肥満」、後者を「洋ナシ型肥満」または「下半身型肥満」と呼ぶ場合もあります。この二つの肥満のうち、「内臓脂肪型肥満」の方が高血圧、脂質異常症、耐糖能異常(糖尿病)などメタボリックシンドロームの危険因子に強く関係するとされています。したがって、減量では単に体重を落とせば良いのではなく、動脈硬化性疾患(脳卒中や心筋梗塞など)の危険因子となる内臓脂肪を減少させることが非常に重要なテーマなのです。
4.メタボリックシンドロームと日本人の死亡原因、「寝たきり」原因
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)とは、内臓に過剰な脂肪が蓄積することによって、血中脂質、血糖値、血圧などに異常を生じ、動脈硬化性疾患を引き起こしやすくする病態とされています。 動脈硬化性疾患の代表的な病気が、心筋梗塞などの心血管疾患や脳卒中などの脳血管疾患です。厚生労働省が発表した資料では、日本人の死亡原因の約30%がこれらの動脈硬化性疾患によって占められています(下図、【日本人の死亡原因】を参照)。また、脳卒中はいわゆる「寝たきり」の原因となる疾患の第一位を占めています(下図、【日本人の「寝たきり」原因】を参照)。 したがって、運動や食事療法によって内臓脂肪の蓄積を予防・改善することで、動脈硬化性疾患の発症を抑えることは、'寿命'や'健康寿命'を延ばす上で重要といえるでしょう。
5.メタボリックシンドロームの診断基準について
メタボリックシンドロームの診断基準の作成にあたっては、2004年4月に日本動脈硬化学会、日本肥満学会、等の8学会による「メタボリックシンドロームの診断基準検討委員会」が設置されました。この委員会では、日本人の民族的特徴に合った診断基準を定める検討がなされました。その結果は、2005年4月に厚生労働省によって<関係学会におけるガイドラインの抜粋>としてまとめられ、次のような診断基準が示されました。
すなわち、(1)内臓脂肪の蓄積(ウェストサイズが、男性は85cm以上、女性は90cm以上)を必須条件とし、これに加えて、(2)脂質異常、(3)高血圧、(4)空腹時高血糖の3項目のうち2項目以上に該当する場合を『メタボリックシンドローム』と診断する」というものです。
日本の企業労働者12万人を対象に心疾患の発症リスクを調べた研究では、「肥満(BMI高値)」、「高脂血症(脂質異常)」、「高血圧」、「高血糖」の危険因子を一つでも持つ人は、全く持たない人に比べて約5倍、2つ持つ人は約10倍、3~4つ持つ人では約30倍も心疾患の発症リスクが増加するという結果が出ています。「各々の異常の程度は軽度でも、危険因子が重なるほど動脈硬化を引き起こしやすい」、これが『メタボリックシンドローム』の考え方です。