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第22回

  「第36回日本整形外科スポーツ医学会学術集会参加記」


                                  横浜市スポーツ医科学センター 整形診療科 小林 匠
(理学療法士)


  
 今年で36回目となる日本整形外科スポーツ医学会学術集会は、私たちの地元である新横浜において平成22910-12日の3日間で行われました。今回の学会は「我が国の整形外科スポーツ医学のグローバル化を目指して」というテーマで、第10回日韓整形外科スポーツ医学会も併催されました。さらには米国整形外科スポーツ医学会から肩・肘関節の権威であるJames R. Andrew(ジェームズ アンドリュー)先生や膝関節の権威であるFreddie Fu(フレディ フー)先生らが招待講演を行い、大いに盛り上がりました。





 今回の学会では、肘関節の外傷に関するシンポジウムや発表が多く行われ、野球肘やテニス肘の治療法や発生メカニズムに関する議論が活発に行われました。成長期の野球選手で多くみられる野球肘は大きく内側型と外側型に分けられ、外側型野球肘は初期では保存療法が選択されます。しかし、痛みを感じにくいために発見が遅れることも多く、進行してから発見されると手術の対象となります。そのため、外側型野球肘の手術方法について現在も多くの議論が行われています。一方で、手術療法が選択されると長期間の安静が必要となるため、近年ではいかに早く外側型野球肘を発見し、保存療法としてリハビリテーションを行うかということが議論されるようになっています。最近は超音波診断装置を用いて、学校や地域単位で検診を行い、早期に外側型野球肘を発見し、手術を行わずに治癒させようという取り組みが全国各地で行われるようになってきています。当センターでも所有する携帯型超音波診断装置を用いることで今後このような検診に取り組んでいきたいと思っています。
 内側型野球肘は、外側型よりも多く発症が見られます。成長段階にある肘関節内側の骨端核が分離した場合に、分離した骨が治癒するまで固定を行い、投球を中止するという治療法が選択されることがあります。しかし、分離した骨が治癒するまでには1年以上を要することもあり、この治療法を望まない選手も少なくありません。投球動作は上肢だけではなく下肢・体幹も含めた全身運動であるため、肘に加わる負担は肘だけの問題ではありません。全身の機能や投球フォームの改善によって、肘に加わる負担を減らすことが可能です。
 当センターでは固定を行わず、肘関節の機能(可動域、筋力)の回復を図り、さらに肘関節に負担のかかるフォームの改善も治療として実施しています。このような治療の結果を当センターの赤池敦(整形外科医師)が「内側型野球肘の保存的療法における復帰基準と理学療法について」という演題で発表し、再発率も低く、初診から約2ヶ月程度で復帰することができていることを報告しました。また坂田淳(理学療法士)が「野球肘患者の復帰時期に影響を与える投球フォームと理学所見について」という演題で発表を行い、肘に負担のかかる投球動作のフォーム改善には肩関節や股関節の可動域、片脚でのバランス能力などが重要であることを報告しました。いずれも、当センターにおける野球肘の治療が一定の効果を表したことを示しており、今後も野球肘の治療法、発症要因や予防に関する研究報告を行い、野球選手が安心して競技に取り組める環境づくりに貢献していきたいと考えています。

左図:坂田淳(理学療法士)の発表

 また、スポーツ整形外科における大きなテーマの一つである膝前十字靭帯(ACL)損傷に関しては、今回の学会でも議論されていました。当センターからも清水邦明(整形外科医師)が「スポーツ選手におけるACL再建術後6カ月でのスポーツ復帰の現状」という演題で発表を行いました。当センターでは、スポーツ選手のACL再建術後は6カ月でのスポーツ復帰を目指したリハビリテーションプログラムを実施しています。その結果、男女ともに平均7ヶ月でスポーツ復帰を果たしており、再受傷率は2.4%と低い値を維持しています。しかし、十分なリハビリテーションが実施できないことなどから筋力回復が遅れる患者さんも多く、目標としている術後6ヶ月でスポーツ復帰をしている患者さんは46%に留まっているのが現状です。今後さらなる努力を重ね、より早く、より安全に選手が復帰できるようにしたいと思っています。

 本学会に参加することで、近年注目されている「外傷・障害の予防」の重要性を改めて実感しました。当センターも市民の健康を担う施設として、今後さらに「外傷・障害の予防」という観点で臨床・研究を進め、多くの方々へ有益となる治療や情報を提供できるよう努力していきたいと思います。

 
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