横浜市スポーツ医科学センター 整形診療科 村田
健一朗(理学療法士)
日本理学療法学術大会は、理学療法学の各分野(基礎系、骨・関節系、神経系など)の学術的側面の発展を目指し毎年開催されている学術大会です。本学会は今年で45回目を数え、今回は
「日本のど真ん中」岐阜県で5/27-29の3日間開催されました。
本大会のメインテーマは「チャレンジ・健康日本〜高齢社会における担い手を目指して〜」となっており、課題として主に以下の4つのチャレンジがあげられていました。第1はヘルスプロモーションにおける真の担い手になるためのチャレンジです。第2は理学療法がEBM(科学的根拠に基づく医療)を目指し、時代に即し、安全で効果的、効率的な手段として確立
されるためのチャレンジです。第3は「いつでも」「どこでも」「安心して」行うことができる理学療法を提供するためのチャレンジです。第4は多職種協働に対して役割を発揮するためのチャレンジです。
また、メインテーマとは別に「運動器の10年」世界運動総括-これからの展望として-のシンポジウムが行われ、そのテーマとして「スポーツ選手の腰椎分離症」「腰痛に対する理学療法のEBM」について最新の知見をふまえて講演が実施されました。「運動器の10年」とは、世界保健機構(WHO)が世界各国と連携して、種々の原因による運動機能障害からの開放を目指し、終生すこやかに身体を動かすことができる「生活・人生の質(QOL)」の保証される社会の実現を目指した運動です。障害頻度の非常に高い運動器の障害について病態や治療、予防法などの開発・研究を2000年〜2010年のおよそ10年間に世界的に集中して取り組んでいくという運動で、本年はその最終年にあたります。
そのような背景から、演題では骨・関節系、スポーツ分野に関する内容が多岐に渡って見られました。中でも私が注目したのは、超音波機器(エコー)を使用した診断・評価を題材として研究やケースレポートが多数見られたことです。エコーは非侵襲的で比較的簡便に行える画像診断で従来内科や産婦人科の検査などで用いられてきました。一昔前と比べて格段と解像度が上がってきたことや一般的に用いられるCTやMRIと比較してより安価に即座に深部を診ることが可能であることから、近年整形外科分野でも話題になることの多いツールです。持ち運びができるサイズのものも開発され、医療機関を離れたスポーツ現場での使用も可能となってきています。現在ある画像診断装置の中で唯一理学療法士が用いることのできるツールであり、エコーの発展の歴史やこれを利用した臨床現場での応用方法がシンポジウムやレクチャーにおいて発表されました。当センターには画像診断用にハンディタイプのエコーを有しており、実際の応用方法を学べたのは非常に有意義でした。また発表されていた基礎的な研究や知見を元に有用な利用方法がさらに広がれば、エコーは整形外科分野において今後さらに普及していく可能性があると感じました。
また、画像診断装置を用いた研究も近年進歩が見られています。レントゲン画像からの2次元の平面的なデータだけでなく、MRIやCT画像と組み合わせることで3次元的に高い精度でデータを得られる方法が開発され、これも新たな知見を得られる方法として注目されています。当センターからも、小林匠(理学療法士)が「3D-2D
Registration法による慢性外側不安定性を有する足関節の荷重位足関節内・外旋運動時の距腿・距骨下関節キネマティクス
―ケースレポート―」を口述発表しました。足首の捻挫を既往に持ち、さらに捻挫を繰り返し、慢性的に不安定感を訴える方は多くいます。しかし、その足首で実際に何が起きているのかはいまだに不明な現状で、この研究では実際に起こっている関節運動を詳細にとらえ、今後健常者と疾患を有した者との比較を行っていく予定です。こうした研究による詳細な情報によりその手がかりを得ることが期待されています。
今回の学会では当センターの専門であるスポーツ外傷・障害についても多くの報告が見られました。その一つは、スポーツにおいて比較的発生しやすく重症度の高い膝前十字靭帯(ACL)損傷に関してです。近年のトピックスでもある疫学的調査や理学療法による治療成績などの発表やポスターが多くを占めていました。会場においても聴講者の関心も高く、活発なディスカッションが行われていました。同様に多く
見られたのが肩関節疾患に対する機能解剖や診断・評価、治療に対する研究結果を発表するものでした。肩については、私がポスター発表として「高校野球選手における肩関節後方タイトネスに対する四つ這い位でのセルフストレッチ法の短期効果:無作為化比較試験」という演題で発表をしました。肩関節疾患、特に投球肩においては、肩の後方部の硬さが肩関節の運動異常を招くとされ問題視され、この硬さを解消するための方法がこれまでもいくつか提唱されてきました。今回選んだ四つ這いでのストレッチはより低いリスクで最も効果的とされる方法と同程度に変化が得られることが分かりました。
今回の学術大会では、発表でのディスカッションにより他施設の理学療法士の方の様々な意見を聞け、大いに刺激を受けました。また、臨床に役立てるための診断・評価法や治療法を考えるためのヒントを得ることができました。今回得た最新の知見をもとにさらなる努力を続け、患者様をはじめ市民の皆様へ有益な情報や治療
の提供を目指していきたいと思います。