スポーツトレーニングの基礎理論(6)
「Body
Mass Index(ボディ・マス・インデックス)」
スポーツ医科学センター 事業連携担当部長 藤牧 利昭(医学博士)
太っているか痩せているかを数値的に判断するといえば、まず、思いつくのが、身長と体重の値を比較することでしょう。最近では、Body
Mass Index(ボディ・マス・インデックス)が広く使われています。求め方は、次の通りです。
例えば、身長172cmで体重64kgならば、64÷(1.72×1.72)=21.63・・・ですから、BMIが21.6ということになります。BMI
22が標準とされていて、25以上なら肥満傾向、18.5以下なら痩せ気味と判定されます。
身長と体重を比べる指数は、BMI以外にもたくさんあります。単純に体重を身長で割る「比体重」という求め方や、身長から100を引いて、0.9を掛けた値と体重を比べる方法もあります。身長を3乗して、それで体重を割る方法もあり、ローレル指数といいます。少し、数学に詳しい方だと、身長は、「長さ」で1次元量、体重は、「体積」に対応しますので3次元量ですから、ローレル指数が合理的に思えます。ところが、実際に多くの方のローレル指数を算出してみると、身長の高い方ではローレル指数の数値が僅かに低くなる傾向にあります。それに対して、BMIでは、身長が低くても高くてもあまり差が出ませんので、BMIが使われるようになったとも言えます。
主な身長ごとにそれぞれのBMIに対応する体重の値を出してみました(表1)。ご自身のBMIを算出するだけでなく、何kgになったら「肥満」なのか、あるいは「やせ」なのか、計算してみるのも大切です。
表1.身長ごとに見た各BMI値に相当する体重早見表
BMI |
17 | 18.5 | 20 | 22 | 23.5 | 25 | 30 | 35 |
身長 | やせ | ←|→ | 標準 | ←|→ | 肥満 | |||
150 | 38.3 | 41.6 | 45.0 | 49.5 | 52.9 | 56.3 | 67.5 | 78.8 |
155 | 40.8 | 44.4 | 48.1 | 52.9 | 56.5 | 60.1 | 72.1 | 84.1 |
160 | 43.5 | 47.4 | 51.2 | 56.3 | 60.2 | 64.0 | 76.8 | 89.6 |
165 | 46.3 | 50.4 | 54.5 | 59.9 | 64.0 | 68.1 | 81.7 | 95.3 |
170 | 49.1 | 53.5 | 57.8 | 63.6 | 67.9 | 72.3 | 86.7 | 101.2 |
175 | 52.1 | 56.7 | 61.3 | 67.4 | 72.0 | 76.6 | 91.9 | 107.2 |
180 | 55.1 | 59.9 | 64.8 | 71.3 | 76.1 | 81.0 | 97.2 | 113.4 |
185 | 58.2 | 63.3 | 68.5 | 75.3 | 80.4 | 85.6 | 102.7 | 119.8 |
(cm) |
BMIが高ければ、いわゆる「メタボ」関連の病気の可能性が高くなりますが、逆にBMIが低くても、感染症などに対する抵抗力が低くて健康的とは言えません。統計を取ると、BMI
22あたりが一番良さそうということですが、最近では、22〜25程度、あるいは25を少し超える方が良いという研究報告も見られています。
早見表に上げた数値のうち、主なものの意味は次の通りです。
(1) BMI 18.5 これより、低いとやせ過ぎで、免疫力の低下などが懸念されます。一流のマラソン選手などでは、栄養管理の専門家がサポートしているので特例です。
(2) BMI 22.0 標準的な体型で、統計的には、病気にかかる率が最も低いとされていますが、後述する「体脂肪率」も考えましょう。
(3) BMI 25.0 やや太目の体型で、これを超えると「肥満」と判定され、いわゆる「メタボ」が心配です。ただし、筋肉の発達したスポーツ選手なら問題ありません。
(4) BMI 30.0 日本では25ですが、アメリカなどでは30を超えたら肥満とされています。筋肉が十分に発達したスポーツ選手であっても、上限はこの程度でしょう。
このように、BMIは、低い場合に「やせ過ぎ」、高い場合に「肥満」を問題にする数値であって、「標準的な範囲なら健康」を保証する数値ではありません。
さて、女性では「痩身願望」を持つ方が多く、女性向けの情報としては「美容体重」とか、「モデル体重」なるモノが取り沙汰され、それぞれ、BMIで20とか18とか言われています。表1を見るともっともらしい数値です。しかし、美的感覚と健康とはズレがあり、日本体力医学会では、「肥満と思う」方の78%が誤認で、そのうち低体重の方は、骨量が少なかったという報告(2008、河野)もあります。若い女性では、やせ過ぎが生理不順を起こすことは以前から知られていて、女性としての正常な発達を損なうと考えられます。しかし、科学的な根拠を得るために、長い年月にわたって多くの方を追跡調査するのは困難ですので、過剰な「痩身願望」は問題があると分かりつつも、強く警告を発することが出来ないのがもどかしいところです。
スポーツ選手について見てみましょう。主な種目のスポーツ選手のBMIを算出し、グループに分けてみました(表2)。なお、身長、体重は選手名鑑などで公表されている数値です。
表2.いろいろなスポーツ選手のBMI
グループ | 選手名 | 種目 | 身長 | 体重 | BMI |
1 | 朝原宣治 | 陸上100m | 179 | 75 | 23.4 |
1 | 北島康介 | 水泳 | 178 | 73 | 23.0 |
1 | 中田英寿 | サッカー | 175 | 72 | 23.5 |
1 | 朝日健太郎 | バレーボール | 199 | 88 | 22.2 |
1 | 川崎宗則 | 野球 | 179 | 74 | 23.1 |
1 | イチロー | 野球 | 180 | 77 | 23.8 |
1 | ダルビッシュ有 | 野球 | 196 | 85 | 22.1 |
2 | 高岡寿成 | マラソン | 186 | 64 | 18.5 |
2 | 野口みずき | マラソン | 150 | 40 | 17.8 |
2 | 高橋尚子 | マラソン | 163 | 46 | 17.3 |
2 | 土佐礼子 | マラソン | 167 | 46 | 16.5 |
2 | 浅田真央 | フィギュアスケート | 164 | 46 | 17.1 |
3 | 堰川康信 | 重量挙げ | 155 | 60 | 25.0 |
3 | 清水宏保 | スピードスケート | 162 | 69 | 26.3 |
3 | 室伏広治 | ハンマー投 | 187 | 99 | 28.3 |
3 | 井上康生 | 柔道 | 183 | 103 | 30.8 |
3 | 松井秀喜 | 野球 | 188 | 100 | 28.3 |
(cm) | (kg) |
スピードやパワーが重視されるグループ1では、22〜24程度です。これらの選手が厳しいトレーニングを緩めると、BMIが25くらいになりそうです。
マラソンなど、体重が少ない方が有利なグループ2の種目では17前後、浅田真央選手も同レベルです。表にありませんが、新体操選手も同程度で、一般的に見れば「やせ過ぎ」でしょう。これらの種目のトップ選手では、専門家がついてトレーニングに見合った栄養管理をしていますので、健康障害は少ないのですが、一般の方が単にこれらの選手のBMI数値を追い求めるのは感心しません。
筋肉の発達が著しいグループ3の選手では、BMIは25を超えています。メジャーリーガーの松井秀樹選手も25を超えています。肥満なのでしょうか?例えば、室伏選手は、全身の筋肉が非常に発達していますし、体脂肪率はマラソン選手並みに低いので、肥満ではありません。逆のケースが、体重は平均的でも、体脂肪率の多い「かくれ肥満」です。ここに、身長と体重からだけで算出できるBMIの弱点があります。
肥満を問題にするには、本来、内臓脂肪と皮下脂肪を合わせた体脂肪率で考えるのが良いのです。ところが、体脂肪率の正確な測定は、スポーツ医科学センターなど専門施設でなければできません。市販の体脂肪計は、入浴前後や運動前後で数値が変わるなど、測定のしかたで数値が変化しますし、機器によって精度に差もあるのが難点です。それに比べると、身長計、体重計は、安価なものでも大きな測定誤差はありませんので、BMI自体も誤差が少ないことが肥満判定に使われている一因でしょう。