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第18回

  スポーツトレーニングの基礎理論(6)
 
Body Mass Index(ボディ・マス・インデックス)」

                                                        スポーツ医科学センター 事業連携担当部長 藤牧 利昭(医学博士)
 
 太っているか痩せているかを数値的に判断するといえば、まず、思いつくのが、身長と体重の値を比較することでしょう。最近では、
Body Mass Index(ボディ・マス・インデックス)が広く使われています。求め方は、次の通りです。
   
 例えば、身長
172cmで体重64kgならば、64÷(1.72×1.72)=21.63・・・ですから、BMI21.6ということになります。BMI 22が標準とされていて、25以上なら肥満傾向、18.5以下なら痩せ気味と判定されます。
 身長と体重を比べる指数は、
BMI以外にもたくさんあります。単純に体重を身長で割る「比体重」という求め方や、身長から100を引いて、0.9を掛けた値と体重を比べる方法もあります。身長を3乗して、それで体重を割る方法もあり、ローレル指数といいます。少し、数学に詳しい方だと、身長は、「長さ」で1次元量、体重は、「体積」に対応しますので3次元量ですから、ローレル指数が合理的に思えます。ところが、実際に多くの方のローレル指数を算出してみると、身長の高い方ではローレル指数の数値が僅かに低くなる傾向にあります。それに対して、BMIでは、身長が低くても高くてもあまり差が出ませんので、BMIが使われるようになったとも言えます。
 主な身長ごとにそれぞれの
BMIに対応する体重の値を出してみました(表1)。ご自身のBMIを算出するだけでなく、何kgになったら「肥満」なのか、あるいは「やせ」なのか、計算してみるのも大切です。

1.身長ごとに見た各BMI値に相当する体重早見表

BMI

17 18.5 20 22 23.5 25 30 35
身長 やせ ←|→   標準   ←|→ 肥満  
150 38.3 41.6 45.0 49.5 52.9 56.3 67.5 78.8
155 40.8 44.4 48.1 52.9 56.5 60.1 72.1 84.1
160 43.5 47.4 51.2 56.3 60.2 64.0 76.8 89.6
165 46.3 50.4 54.5 59.9 64.0 68.1 81.7 95.3
170 49.1 53.5 57.8 63.6 67.9 72.3 86.7 101.2
175 52.1 56.7 61.3 67.4 72.0 76.6 91.9 107.2
180 55.1 59.9 64.8 71.3 76.1 81.0 97.2 113.4
185 58.2 63.3 68.5 75.3 80.4 85.6 102.7 119.8
(cm)                

 BMIが高ければ、いわゆる「メタボ」関連の病気の可能性が高くなりますが、逆にBMIが低くても、感染症などに対する抵抗力が低くて健康的とは言えません。統計を取ると、BMI 22あたりが一番良さそうということですが、最近では、2225程度、あるいは25を少し超える方が良いという研究報告も見られています。
 早見表に上げた数値のうち、主なものの意味は次の通りです。
(1)
 BMI 18.5 これより、低いとやせ過ぎで、免疫力の低下などが懸念されます。一流のマラソン選手などでは、栄養管理の専門家がサポートしているので特例です。  
(2) 
BMI 22.0 標準的な体型で、統計的には、病気にかかる率が最も低いとされていますが、後述する「体脂肪率」も考えましょう。
(3) 
BMI 25.0 やや太目の体型で、これを超えると「肥満」と判定され、いわゆる「メタボ」が心配です。ただし、筋肉の発達したスポーツ選手なら問題ありません。
(4) 
BMI 30.0 日本では25ですが、アメリカなどでは30を超えたら肥満とされています。筋肉が十分に発達したスポーツ選手であっても、上限はこの程度でしょう。
 このように、
BMIは、低い場合に「やせ過ぎ」、高い場合に「肥満」を問題にする数値であって、「標準的な範囲なら健康」を保証する数値ではありません。
 さて、女性では「痩身願望」を持つ方が多く、女性向けの情報としては「美容体重」とか、「モデル体重」なるモノが取り沙汰され、それぞれ、
BMI20とか18とか言われています。表1を見るともっともらしい数値です。しかし、美的感覚と健康とはズレがあり、日本体力医学会では、「肥満と思う」方の78%が誤認で、そのうち低体重の方は、骨量が少なかったという報告(2008、河野)もあります。若い女性では、やせ過ぎが生理不順を起こすことは以前から知られていて、女性としての正常な発達を損なうと考えられます。しかし、科学的な根拠を得るために、長い年月にわたって多くの方を追跡調査するのは困難ですので、過剰な「痩身願望」は問題があると分かりつつも、強く警告を発することが出来ないのがもどかしいところです。
 スポーツ選手について見てみましょう。主な種目のスポーツ選手の
BMIを算出し、グループに分けてみました(2)。なお、身長、体重は選手名鑑などで公表されている数値です。

表2.いろいろなスポーツ選手のBMI

グループ 選手名 種目 身長 体重 BMI
1 朝原宣治 陸上100m 179 75 23.4
1 北島康介 水泳 178 73 23.0
1 中田英寿 サッカー 175 72 23.5
1 朝日健太郎 バレーボール 199 88 22.2
1 川崎宗則 野球 179 74 23.1
1 イチロー 野球 180 77 23.8
1 ダルビッシュ有 野球 196 85 22.1
2 高岡寿成 マラソン 186 64 18.5
2 野口みずき マラソン 150 40 17.8
2 高橋尚子 マラソン 163 46 17.3
2 土佐礼子 マラソン 167 46 16.5
2 浅田真央 フィギュアスケート 164 46 17.1
3 堰川康信 重量挙げ 155 60 25.0
3 清水宏保 スピードスケート 162 69 26.3
3 室伏広治 ハンマー投 187 99 28.3
3 井上康生 柔道 183 103 30.8
3 松井秀喜 野球 188 100 28.3
(cm) (kg)

 スピードやパワーが重視されるグループ1では、2224程度です。これらの選手が厳しいトレーニングを緩めると、BMI25くらいになりそうです。
マラソンなど、体重が少ない方が有利なグループ
2の種目では17前後、浅田真央選手も同レベルです。表にありませんが、新体操選手も同程度で、一般的に見れば「やせ過ぎ」でしょう。これらの種目のトップ選手では、専門家がついてトレーニングに見合った栄養管理をしていますので、健康障害は少ないのですが、一般の方が単にこれらの選手のBMI数値を追い求めるのは感心しません。
 筋肉の発達が著しいグループ
3の選手では、BMI25を超えています。メジャーリーガーの松井秀樹選手も25を超えています。肥満なのでしょうか?例えば、室伏選手は、全身の筋肉が非常に発達していますし、体脂肪率はマラソン選手並みに低いので、肥満ではありません。逆のケースが、体重は平均的でも、体脂肪率の多い「かくれ肥満」です。ここに、身長と体重からだけで算出できるBMIの弱点があります。
 肥満を問題にするには、本来、内臓脂肪と皮下脂肪を合わせた体脂肪率で考えるのが良いのです。ところが、体脂肪率の正確な測定は、スポーツ医科学センターなど専門施設でなければできません。市販の体脂肪計は、入浴前後や運動前後で数値が変わるなど、測定のしかたで数値が変化しますし、機器によって精度に差もあるのが難点です。それに比べると、身長計、体重計は、安価なものでも大きな測定誤差はありませんので、
BMI自体も誤差が少ないことが肥満判定に使われている一因でしょう。
 

 
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