「第20回 日本臨床スポーツ医学会学術集会参加記」
スポーツ医科学センター 整形診療科 木村 佑
日本臨床スポーツ医学会はスポーツ医学領域における研究の促進と情報交換を図り、スポーツ医学の進歩・普及とスポーツの発展に寄与することを目的とした学会です。学術集会は毎年11月に開催され、20回目を
迎える本年度は神戸で開催されました。明治以降の近代化に伴い港町として発展した神戸の街並みは、西欧風建築物が街の随所に見られ、横浜と似た雰囲気があります。市街地の周りを六甲山が囲んでおり、紅葉が深まりつつある今の季節は、
紅く染まる山並みと太陽が煌めく海の景観を一つのキャンバスで同時に楽しむことができます。
今回のメインテーマは「エビデンスに基づくスポーツ医学:Evidence
Based Sports medicine」でした。近年、エビデンス(科学的根拠)の重要性が唱えられており、医師の権威や経験による判断ではなく、科学的な研究により治療の効果やリスクを明確にすることが重要であるといわれています。スポーツ医学においては、手術手技の選択、診断方法、治療方法、スポーツへの復帰時期など様々な場面において重要視されています。今学会においては、内科、整形外科、バイオメカニクス、心理、栄養など様々な分野における研究が発表され、横浜市スポーツ医科学センターからは以下の6題を報告しました。
高田英臣: 『運動施設における事故調査』
赤池 敦:
『テニスプレイヤーにおけるスポーツ損傷の発生部位について』
持田 尚:
『中学陸上競技者のシンスプリント発生要因に関するバイオメカニクス的研究』
河村真史:
『脛骨粗面の発育段階における超音波所見と臨床所見との関係』
小林 匠: 『スポーツ医科学センターにおけるシンスプリント症例に関する疫学的研究』
清水 結:
『女子バスケットボール日本リーグ(WJBL)におけるスポーツ損傷の疫学調査と外傷予防効果の検討』
【写真:発表の様子 左から、高田医師、小林理学療法士、清水理学療法士】
内科、整形外科、リハビリテーション、スポーツ科学などスポーツに関わる様々な専門職が従事する当センターらしく、多岐の分野にわたる報告をし、有意義な議論を展開してきました。
学術集会の大きな利点としては、医療現場で働く医師や理学療法士、スポーツ現場で活躍するトレーナー、研究部門に携わる研究者や大学院生など様々な分野の専門家が参加することがあげられます。各々が自らの分野の研究を報告し、議論することにより、分野内および分野間の交流が生まれ、研究者は臨床家の意見を次の研究に生かすことができ、臨床家は研究を基に自らの治療方法を再考することができます。また、現段階における最新のトピックスを収集できることも大きな利点です。今回の学会を通して得た最新の知識や大いなる刺激を礎に、さらなる努力を重ね、市民の皆様に安全かつ効果的な治療やサービスを提供していきたいと考えています。
【研究内容の要旨】
高田英臣:運動施設における事故調査
市内各区におけるスポーツ参加中の事故発生状況に関する調査を行ったところ、心肺停止は360万人分の1人の頻度で起こり、AED(自動体外式除細動器)の導入後の2例においては救命に成功していることが明らかになりました。
赤池敦:テニスプレイヤーにおけるスポーツ損傷の発生部位について
テニスプレイヤーのケガに関しては、14歳〜17歳と40歳代後半〜50歳代半ばに多発していることが明らかになりました。また、受傷部位は性別や年代別で特徴がみられました。その原因としては、身体的特徴の差やプレースタイルの差が関係していると思われます。
持田尚:中学陸上競技者のシンスプリント発生要因に関するバイオメカニクス的研究
シンスプリント発症前にランニング動作の分析を行い、シンスプリントの発症原因を検討したところ、着地後の力学的なあおり(ローリング)が不十分(不適切)な人がシンスプリントを発症してしまう可能性があることが示唆されました。
河村真史:脛骨粗面の発育段階における超音波所見と臨床所見との関係
成長期の男子サッカー選手を対象にオスグッド病の調査を行い、超音波診断装置を用いることでオスグッド病をより早く見つけることができる可能性が見出されました。より明確な結果を得るためには、成長段階を追いながらの継続的な調査が必要です。
小林匠:スポーツ医科学センターにおけるシンスプリント症例に関する疫学的研究
当センターにおいて過去10年間で999名がシンスプリントと診断されており、女性の方が多く発症していること、陸上競技(特に長距離)、バスケットボール、サッカーで多く発症していることが明らかになりました。
清水結:女子バスケットボール日本リーグ(WJBL)におけるスポーツ損傷の疫学調査と外傷予防効果の検討
WJBLにおける怪我の発生状況の調査を行い、外傷予防プログラムの効果について検討しました。膝のケガの総数は減少していませんでしたが、プログラムを実施している人と実施していない人を比較すると、実施している人の方が捻挫や膝のケガが少ないことが示唆されました。