第16回
スポーツトレーニングの基礎理論(5)
「エアロビクス」
スポーツ医科学センター 事業連携担当部長 藤牧 利昭(医学博士)
エアロビクスというと、一般的には軽快な音楽に合わせて行う「エアロビック・ダンス」をイメージする方が多いと思います。日本に入ってきた時の若い女性がレオタードを着て音楽に合わせてダンスをする映像が、非常にインパクトが強かったので、今もって、「エアロビクス=エアロビック・ダンス」と思う方が多いのです。多くのスポーツクラブ、フィットネスクラブでは、さまざまなエアロビクス教室が開催され、いずれも音楽に合わせて運動するものです。一方、エアロビック動作や演技を採点する競技もあり、全日本選手権や世界選手権も行われています。統括する団体は、日本体育協会の加盟団体にもなっていますが、「日本エアロビック連盟」といって、エアロビクスとは差別化した名称を使っています。
しかしながら、エアロビクスは、本来、全身持久力の向上や心臓病予防のために行う活発な全身運動=有酸素運動のことで、ジョギングが中心です。ジョギングの他にも、トレーニング室などで行うバイク運動や、サイクリング、水泳、レクリエーション的に行うテニスなどのスポーツ、ウォーキングも有酸素運動で、エアロビ
ックス・ダンスも数ある有酸素運動のひとつです。
「“活発な”ではなく、“無理のない”運動なのでは?」とか「“ジョギング”ではなく、“ウォーキング”なのでは?」と疑問を持つ方が多いかも知れません。エアロビクスは、1960年代にアメリカで行われるようになりましたが、当時、アメリカ社会の経済活動を支える中核世代に元気がなかったので、その対策として活発な身体運動として有酸素運動が推奨され、ジョギングブームが起こりました。同時に、活発な身体運動は、運動不足による心臓病予防に効果があるとされ、世界的に広まりました。その後、中核世代から中年層、高齢者まで取り組む人が広がり、健康にやや不安のある人にまで拡大していくにつれ、安全性を考慮して、「無理のない」「ウォーキング」などが推奨されるようになりました。ですから、若くて活動的な方は、「無理のないウォーキング」でなく「元気にジョギング」でも良いのです。
そもそも「有酸素運動」とは何でしょうか?
「体内に酸素を取り入れて行う運動」などとも言われますが・・・。体内にはいつでも酸素があります。肺の中にはもちろん、血液中のヘモグロビン、筋肉中のミオグロビンも、常に酸素を持っているのですから、「取り入れて」はおかしいかも知れません。
運動には、さまざまな運動がありますが、全身的な運動で、楽々ではないが、長時間続けられるのが、有酸素運動と言えるでしょう。このような運動では、呼吸循環系が活発に働いて、全身の筋肉に酸素を送り、その酸素を利用したエネルギーが運動の主役になるので有酸素運動と呼ばれています。時間的に見ると、続けるつもりなら20分は続運動かどうかが目安になります。水泳で、50m泳いだら一休みしないと苦しい場合は、その人にとって水泳は有酸素運動とは言えません。逆に、1時間くらいは走り続けられるけれど、時間がないので10分で止めたとしても有酸素運動ということになります。
有酸素運動は、筋力、柔軟性、持久力などのさまざまな体力要素の中で、持久力の向上に有効ですし、健康にも良いと言われていますが、理由を再確認しておきましょう。
1つは、呼吸循環系を良い状態に保つことです。人間のカラダを良い状態に保つには適度に使うことが不可欠ですが、有酸素運動では呼吸循環系が無理なく活発に働きます。血管系も良い状態を保ち、脳血管疾患などの予防にも有効なのです。厚生労働省が「健康づくりのための運動指針」の中で推奨している「エクササイズ」が有酸素運動とも言えますが、指針の中で「軽い散歩はエクササイズとしてカウントしない」と言うのは、呼吸循環系が活発に働いているわけではないからです。活発に働くことで良い状態に保たれるのです。
もう1つは、カロリー収支です。19世紀までなら、日常生活、職業生活で消費するカロリー量と食事等で摂取するカロリー量はバランスが取れていたのですが、20世紀後半から、消費カロリーが減少するとともに、高カロリーの食品が増えました。摂取カロリーがオーバーすれば、余分な脂肪を溜め込み、メタボリック症候群に向かっていくことは十分ご承知だと思います。食べるのを減らすのも大切ですが、消費する方を増やすことも大切で、それには有酸素運動が良いのです。激しい運動で、汗をびっしょりかいたら、疲労感も強いので、痩せそうな気がするのですが、総カロリー消費量はそれほどでもありません。それよりは、少し長い時間、有酸素運動(エアロビクス)を行った方が総カロリー消費量は大きくなりますので、カロリー収支改善に有効です。