スポーツ医科学センター 健康科学課 スポーツ科学部門 持田 尚(スポーツ科学員)
日本体力医学会は、5000余名の会員からなる体力・スポーツ医科学の専門学会です。国民体育大会と並行して毎年開催され、今年は新潟で催されました。新潟は、横浜とおなじく「安政の開国」に開港された5大都市(函館、新潟、横浜、神戸、長崎)の1つであり、開港150周年を迎えた異国情緒豊かな港町です。
さて、スポーツ科学の研究領域は、健康志向・競技志向の運動を対象としていて幅広いのですが、私たちは、両分野に関連した内容を発表してきました。参加者から多くのご質問をいただき、議論を深めることができました。
(1) 福田彩声(2009)健康増進教室に長期継続参加した高齢者の下肢筋力変化
(2) 持田 尚(2009)日常の歩行に不安感をもつ健常者の歩行分析
(3) 吉久武志(2009)ユースサッカー選手の選抜における形態・体力要因
写真:学会発表の様子【左から、(1)福田運動指導員、(2)持田科学員、(3)吉久科学員】
いずれの研究も、スポーツ医科学センターにおける実践現場から生まれた問題・疑問(Clinical
Question)への取組みであり、その成果は、教室事業、競技力向上事業などの実践現場へと還元されていきます。
本学会では、運動器、生活・健康、遺伝子、スポーツと疾患、神経・感覚、代謝・免疫、加齢・性差、トレーニング、体液・内分泌、バイオメカニックス、リハビリテーション・運動療法、呼吸・循環、環境、栄養・消化の14分野にわたる研究内容が発表されました。期間中、地元の新潟県健康づくり・スポーツ医科学センターをはじめとする、各地域のスポーツ医科学センターや他分野関連領域の研究者らと交流することで、当センターの活動を知ってもらうことができ、また最先端の情報を多く収集できたことはたいへん有意義でした。
このような研究活動は、実践現場のためのエビデンスづくりとなり、曖昧な部分をできるだけ少なくするという点で重要です(Evidence-based
Practice:EBP)。そして、実践現場では、個々人の抱える問題について考え、対話を交えながらその解決へ向けた取組み(Narrative-based
Practice:NBP)が重要です。私たちはその両面を大事にしながら、横浜市民の健康づくり、スポーツ振興、競技力の向上に寄与していきたいと思っています。
【研究内容の要旨】
1)福田彩声(2009)健康増進教室に長期継続参加した高齢者の下肢筋力変化
7〜12日に1回程度の健康増進教室(高齢者)の参加
者は、単年度レベルでみると筋力向上の効果がはっきりとみられないケースもありますが、複数年継続すると7〜21%の
筋力向上が期待できますので、気長に運動を習慣化できる環境づくりの重要性が示唆されました。
2)持田 尚(2009)日常の歩行に不安感をもつ健常者の歩行分析
日常の歩行に不安を抱えた時点で、既に下肢の筋機能やバランス能力の低下が起こっていて、それらが歩く速度、歩幅の低下に影響をおよぼしている可能性が示唆
されました。そして、「感じた時が吉日」と、体力・運動能力の低下が進行し、運動器障害や病気になってしまう前に、感じた時から自らが改善への取組みへのスタートを切ることが望ましいと
考えられています。まず、当センターのスポーツプログラムサービス(SPS)を受けていただくこともその第一歩となるでしょう。
3)吉久武志(2009)ユースサッカー選手の選抜における形態・体力要因
Jリーグ下部組織におけるユースサッカー選手選抜の実態を体格・体力面から明らかにしたものです。選抜に
おいては体力的側面が決定的な要因とはなっていないものの、脂肪が多めの選手や、体格(身長・体重・大腿囲)および全身持久力(最大酸素摂取量)が一定ラインより低い選手は
選抜チームに選ばれていないことから、クリアすべき水準があるだろうと推察しています。また、体格(身長・体重・大腿囲)が一定のライン以下となった選手の中には、成長速度の遅い選手(いわゆる晩熟タイプ)が多く含まれていて、選抜において配慮が必要であろうとしています。
【報告者プロフィール】 持田 尚(もちだ たかし) 1969年生 <略歴> 東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程修了後(教育学修士)、青山学院大学助手を経て、現在に至る。 東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科 健康・スポーツ系教育講座(博士課程)在学中。 日本オリンピック委員会 強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本陸上競技連盟科学委員会(幹事)を兼任。 <主な研究テーマ> スポーツ技術の動作分析、スポーツパフォーマンスの分析・評価、ジュニアスポーツ指導に資する研究など。 |