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第14回

 「日本整形外科スポーツ医学会参加記」

                                   スポーツ医科学センター 整形診療科  玉置 龍也(理学療法士)


 日本整形外科スポーツ医学会は35回目を迎える歴史のある学会で、今回は群馬県前橋市にて平成21年9月25、26日の2日間で行われました。スポーツに関わる整形外科医師を中心とした学会ですが、近年はスポーツ現場に関わるメディカルスタッフも多様化しているため理学療法士を初めとする医療資格者やトレーナーの方々など他職種からの学会参加や発表も目立っています。

 近年は競技スポーツのみならず、健康増進のためのレクリエーションや高齢者の介護予防に至る運動までスポーツの社会的役割もかなり幅広くなっています。オリンピック競技の拡大に代表される女性のスポーツ分野への積極的進出や最近でのランニングブームなどといった社会的背景もあり、スポーツ人口は総じてかなり多くなっていると言えます。スポーツ外傷・障害も必然的に増えるため、現代のスポーツ医科学においては様々なレベルにおいて外傷・障害への対応が求められます。本学会のプログラムもそれに対応する形で、一般から競技スポーツまでの様々なレベルや成長期から高齢者までの様々な年代に関する内容が行われました。

 中でも競技スポーツにおいては、如何に早期に競技に復帰するかという点が常に課題となります。スポーツの競技復帰においては整形外科医の外科的手術だけではなく、理学療法士やトレーナーに代表される現場スタッフによるリハビリテーションやトレーニングも重要となってきます。最近ではそのような認識が広まりつつあり、本学会においても整形外科医以外にも多くの講演や発表を行っていました。外傷・障害への対応についても、手術をするか否かという選択から、最も早くかつパフォーマンスを落とさず復帰ができる選択をする流れとなっており、手術や保存療法(手術をしない治療法)の中でどの方法が最も効率的かを議論することが目立ってきたように感じます。
 当センターからも清水邦明(整形外科医師)が「骨付き膝蓋腱を用いた前十字靱帯再建術後の筋力回復―異なる患者背景ごとの検討―」という演題で発表を行いました。手術の方法がいかなる患者に対して有効であるかを明らかにするための 報告ですが、前十字靱帯損傷という膝外傷はスポーツ活動の復帰のためには手術を免れない疾患です。これも最も効率的な治療方法を選択するための研究のひとつと言えると思います。

 今回の学会では、実際の診察法や治療法などが取り上げられ、その場で紹介されていました。これは過去にあまり例を見ないもので特徴的でした。スポーツ外傷に対する診察法や治療法、超音波診断装置を用いた画像診断法、関節鏡手術の方法などスポーツ医学の医療現場において用いられる様々な技術や機器の利用法が紹介されていました。
 中でも特に印象的だったのは現場での診察法の件です。今回は投球により慢性的に肩に疼痛を生じる投球障害肩を取り上げ、如何に情報を効率的に収集し、体系的に整理するかについて実際の問診や検査をしていました。投球障害肩はほとんどの場合、非生理的な関節運動や非効率的な全身運動により局所に負担を生じることで肩関節の組織がダメージを負い疼痛が生じます。情報の収集と整理によりそれらの運動のメカニズムを考察し、どのように動かしたことで負担が生じたかについて理解ができれば、逆にいかに動かすことで痛みが生じなくなるのかを考えれば、それが治療 になるのです。
 投球障害肩は投球という比較的負担の大きな繰り返される動作によって生じる疾患であるため、動作により障害を生じるということが広く理解されてきています。しかし、私はこのような発表の場を見るにつけ、他のスポーツにおける整形外科疾患もほとんどはこのように動作の破綻とそれによる局所のダメージが生じていると考えざるを得ませんでした。当センターでもこのような考え方のもとで的確な診察・評価とそれによる治療を行い、スポーツ外傷・障害の痛みを取り除く治療ではなく、根本的に痛みを生じている原因を取り除く治療を行うことが必要であると痛切に感じました。

 また、近年のスポーツ分野で特に注目されているのは「外傷・障害の予防」です。これまでスポーツ外傷・障害へのスポーツ医学の果たす役割はほとんどが外傷発生後の対応でした。しかし、これらを発展させることで行き着いたのは、「最も効果的な治療方法はけがを生じないように予防すること」でした。事実、治療の中で行われるのは外傷を生じたメカニズムを考察しそれらを修正することですが、これはその後の再発を防ぐという意味でまさに予防に他ならないのです。
 本学会では当センターから鈴川仁人(理学療法士)が「成長期スポーツ障害」というパネルディスカッションにパネラーとして参加し、「中学生バスケットボール選手に対する下肢外傷予防プログラムの実施効果」という演題で発表し、その後討議を行いました。この発表内容は横浜市および横浜市体育協会と協力して行ったプロジェクトで、市内の市立中学校バスケットボールに対し予防プログラムを指導し、その実施効果を検証したものです。プログラム自体はウォームアップで行える短時間の運動ではありますが、先述した重篤な膝前十字靱帯損傷の発生率が効果的に減らすことが明らかとなりました。また、同様のプロジェクトで行った研究として、私が「下肢外傷予防プログラムによる中学生バスケットボール選手の片脚スクワット動作の変化」という演題でポスター発表を行い、プログラム実施前後の動作の変化について報告しました。いずれも近年の予防プログラムへの関心の高さに加え、大規模に実施したプロジェクトにおいて一定の効果が得られたということで多くの質問をいただきました。現在もいくつかのプロジェクトを実施中ではありますが、外傷予防に関する方法と効果についての報告を続け、予防の重要性を伝えていきたいと改めて感じました。
 
 本学会に参加することで、あらためて臨床、研究のいずれも得られた情報を整理し体系的にまとめることの重要性を感じました。当センターはスポーツでも幅広いレベルや年代の利用者があり、また臨床も研究も十分に行える希少な施設です。このような利点を生かし情報の収集と整理を行うことで、横浜市民、ひいてはスポーツに関わる多くの方々へ有益な治療と情報を提供できればと思います。



 
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