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第10回

 スポーツトレーニングの基礎理論(3)
 「目標心拍数」

                            スポーツ医科学センター  事業連携担当部長 藤牧利昭(医学博士)

 メタボリック症候群の予防や健康維持のために行う運動として、最も推奨されるのが有酸素運動ですが、適切な強度で行うことが大切です。楽過ぎる運動では効果が少なく、強過ぎる運動でも十分な効果が得られません。有酸素運動は、続けて運動しても中間に休息をはさみながらでもトータルの運動量が多い方が効果的ですが、「きつい運動」は長く続けられませんので、トータル運動量が少なくなってしまうのです。
 また、強過ぎる運動は心臓などに負担があるだけでなく疲労も残りますので、週3
回の計画が、週1回、月数回になりがちです。「楽でもなく、きつくもない」運動を出来れば30分以上、出来れば週3回程度行って欲しいものです。

  
「楽でもなく、きつくもない」強度は、心拍数を目安にします。もっとも簡単な方法は
 @【
180 年齢 】です。
  
50歳なら、180 50 = 130 になります。また、
 A【
138 年齢 ÷ 2 】という方法もあり、
  50
歳なら138 50 ÷ 2 = 113 になります。

 @とAでは差がありますが、@は元気な人がややハードに行う時の目安で、Aは楽な運動を長く行う「ニコニコペース」の目安です。どちらも年齢が使われていますが、年齢とともに最大に頑張ったときの心拍数=最高心拍数が低下するためです。 ただし、この方法は個人差を考慮していないので注意が必要です。

 そこで、最高心拍数を推定し係数を掛けて求める方法
 B【(
220 年齢 )× (係数: 0.50.9 ) 】もあります。
  この場合、係数は0.5から始めて余裕があれば係数を上げていきます。

  50
歳で、係数0.7なら、( 220 50 )× ( 0.7 ) = 119 になります。
  
 @〜Bは、いずれも最高心拍数は考慮していますが、安静心拍数は考慮していません。安静心拍数を考慮すると次の計算方法になります。
 C【{(最高心拍数)−(安静心拍数)}×(係数:
0.40.6+ (安静心拍数)】
  この場合も係数は0.4から始めて余裕があれば係数を上げていく方法をとります。

  50
歳で、安静心拍数が60拍/分、係数0.5とすると、(2205060)× 0.5 + 60 = 115 になります。
  @〜Bに比べて、やや手間が掛かりますが、さして難しい計算ではありません。
 

実際に運動してみると、意外ときつかったり、逆に物足りなかったりすることもあります。@〜Cは、いずれも最高心拍数を( 220−年齢 )で推定していますが、この推定に誤差があるためです。楽々ならば、計算した値より高い心拍数で、きつければ計算した値より低い心拍数で運動してみましょう。「楽でもなく、きつくもない」感覚が大切です。ただし、計算した値と15拍以上差がある場合は、念のためスポーツ専門医に相談することをお勧めします。 

「楽でもなく、きつくもない」適切な運動強度は、スポーツ生理学的には、血中乳酸で決定します。楽な運動なら30分以上続けても血中乳酸は上がっていきませんが、激しい運動では血中乳酸が上昇して、運動を継続できません。多くの研究から、運動を続けても血中乳酸が上がるか上がらないかの境目あたりが適度な運動であることが分かっていて広く認められています。しかし血中乳酸は、簡単に測ることが出来ないのが難点です。

これに対し、心拍数は、胸に手を当てたり、手首(撓骨動脈)やくび(頸動脈)に指を当てたりして測るのが容易です。心拍数(脈拍数)は、運動の強度と比例関係にあり、楽ならば低く、きつければ高くなります。そこで、運動しながら、心拍数と血中乳酸を同時に測り、血中乳酸が上がるか上がらないかの境目に相当する心拍数を見つけて、それを目標心拍数とするのが良いのです。マラソン、自転車レース、トライアスロンなどを目指す人は、一度測ってもらうと良いでしょう。
 また、胸に電極付きのベルトを巻き、腕時計式に心拍数を見られる心拍計も市販されています。


50歳、安静心拍数60拍/分、強度50%の場合の目標心拍数】
   @【
180 年齢
    
= 180 50 = 130
   A【
138 年齢 ÷ 2
    = 138
50 ÷ 2 = 113
   B【( 220 年齢 )× ( 70% )
    
= ( 220 50 )× ( 0.7 ) = 119
   C【{(最高心拍数)−(安静心拍数)}×(
50%+ (安静心拍数)】
    
=2205060)× 0.5 + 60 = 115
    
      
※強度50%に相当する係数は、Cでは0.5ですが、Bでは0.7程度になります。 

 

このコラムは「図解スポーツトレーニングの基礎理論」(横浜市スポーツ医科学センター編、西東社 2007年)を参考に 執筆しています。

 

 
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