【結果報告書資料の一部】
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健康・体力アップ情報health & fitness Information

教室参加者の一例(ロコモ予防教室篇)

                                  健康科学課 岸 由紀夫(運動指導員)
                                                 小野 宣喜(スポーツ科学員)


 ロコモは「運動器の障害のために自立度が低下し、介護が必要となる危険性の高い状態」です。ロコモ対策は健康寿命を延ばすためには非常に重要と言えます。日常生活を支障なく過ごすには、いつまでも自分の力でしっかり立ち、しっかり歩いていきたいものです。

横浜市スポーツ医科学センターでは、ロコモ予防の啓発事業として、スポ医科ウォーキング、バランス歩行教室、ロコモ予防教室、姿勢歩行改善(ロコモ)教室を実施してきました。今回は平成22年度から平成25年度までに実施したロコモ予防教室から成果の見られた参加者の一例をご紹介します。 この方は、教室の効果としてバランス能力、バランス姿勢、筋力、歩行姿勢に改善が見られた方です。


1.ロコモ予防教室(H22年度〜25年度版)

教室の目的は、
  
▼姿勢保持の訓練 両脚、片脚に限らず安定した姿勢を保つことができるようになる。
   ▼歩行動作の訓練 = からだの複数の関節を協調させ動かす能力を高める。

主なトレーニング項目は、
 1.ストレッチング
  ●ストレッチングで姿勢を保つため、歩くために必要な筋をほぐし正常位置に戻してあげます。
 2.関節可動域(ROM)エクササイズ
  ●立つ、歩くなどに必要な関節の動かせる範囲を大きくします。
 3.筋力トレーニング
  ●体重をしっかり支えられるように、また衝撃をしっかり受け止め自分の身体をコントロールできるように筋力をつけます。
 4.コーディネーショントレーニング
  ●コーディネーショントレーニング=複数の関節を協調させ動かすトレーニングをします。
   つまり、1〜3を上手く組み合わせ一つの動作にすることです。
 5.個別メニュー(宿題自宅メニュー)
  ●教室内でまかなう事のできない個人メニューを行い、改善を図ります。

これらのトレーニング種目を、問診や測定結果などから指導員と科学員が話し合い、トレーニングプログラムを立てます。トレーニングの種目を知り実践することで自分の身体の状態が把握できます。どこが動きにくいのか?身体のどこが弱くなっているのか?どこに力を入れればいいのか?を教室で学んでいきます。





2.教室参加者「Aさん」のケース

(1)プロフィール

 ■性別:女性
 ■年齢:50代
 ■主訴:歩き方がおかしいと知人から指摘を受けたことがある。階段の下りに不安がある。時々つまずくことがある。
 ■既往歴:特になし。痛み等もなし。
 ■運動習慣:特になし。歩行習慣少ない。

(2)測定項目(初期・効果)

 ■身長/体重
 ■体組成
 ■立位姿勢
 ■足圧
 ■筋力(股関節外転筋)
 ■脚伸展パワー
 ■片脚立ちバランス(揺れの大きさ、姿勢)
 ■歩行動作(姿勢、速度、歩幅、
 ■最大一歩幅
 以上の項目をトレーニング前とトレーニング後で測定します。





(3)初期測定と効果測定結果

 測定結果の中からいくつか抜粋しました。
 
【片脚立ちバランス】


片脚立ちバランスは20秒クリアできるだけでなく、その時の姿勢もチェックします。上記の図は、片脚立ちしている時の姿勢になります。注目して見て頂きたいのは、緑ラインの傾きが異なるところです。トレーニング前に比べてトレーニング後は、骨盤の傾きが少ない姿勢で片脚立ちバランスを行えています。では実際に傾きを比較して見ましょう。



折れ線グラフは、片脚立ちバランスをしているときの肩(青い線)と骨盤(ピンクの線)の傾きを示したものです。バランス姿勢は、肩と骨盤の傾きが0度に近いのが理想的です。グラフは縦軸が傾き、横軸が時間(25秒)になっています。トレーニング前に比べてトレーニング後では、縦軸の0度付近に近いことが分かります。片脚立ちの時も姿勢を崩さず立てるようになったことを表しています。

 
【歩行】
下記の図は、実際の歩行です。赤は足の位置、青の三角は骨盤、緑は重心の位置を示しています。トレーニング前とトレーニングを比べると歩幅(矢印と矢印)は大きくなっています。右脚の爪先(紫色の丸)が内側に入るのがなくなっていることがわかります。




 
【結果一覧(抜粋)】
初期測定 効果測定
脚伸展パワー 80歳平均なみ。 体重比で0.9W/kg向上。
(70代前半平均なみ)
歩行 歩幅は身長の割には狭い。
右脚は地面接地時に爪先が外側を向き膝が内側に入る。
右肩下がり傾向。
腕振り小さい。
歩行姿勢の側面から股関節の動きが小さい。
左右とも膝関節の曲がりが小さく体重移動が上手くできていない。
通常歩行速度は20%向上。
通常歩行歩幅は67.8cmから81.0cmに向上。
右脚は地面接地時に爪先が外側を向き膝が内側に入る動き改善傾向。
右肩下がり傾向改善。
歩行姿勢側面から股関節の動きが大きくなってきている傾向。
右膝関節の曲がりが小さく体重移動が上手くできていない。
最大1歩幅
(身長比)
右脚13.4cmアップ。
左脚6.9cmアップ。
課題
(楽に長く歩くために)
1.体幹の強化による立位姿勢改善
2.脚力の向上
3.最大一歩幅の向上
4.歩幅、速度の改善
5.歩行中の爪先の向きの改善
1.体幹の強化
2.肩周囲の動きを整える(ストレッチ)
3.脚の筋力強化
4.歩行時の体重移動(乗り込み)

(4)効果と今後の課題

 
  1. 立位姿勢に関して
    トレーニング前の初期測定では、正面から見て右に傾きが見られました。側方から見て円背(猫背)、腰がやや前方に出ていました。
    トレーニング後の効果測定では、円背姿勢と腰が前方に出るところに関しては改善が見られました。肩甲骨周り(背中)と胸郭(胸)の動きを整えるストレッチ、姿勢保持(体幹)トレーニング、個別メニューによる効果と考えることができます。

  2. 歩行に関して
    トレーニング前の初期測定では、身長の割に歩幅が狭く、歩行速度が遅い結果でした。また、足が地面に完全設置した時に爪先が内側に入る傾向も見られた。
    トレーニング後の効果測定時では、歩幅、歩行速度、体重の乗り込みに改善が見られました。股関節の動きをよくするために関節可動域(ROM)エクササイズと個別メニュー(股関節を動かすための筋肉ほぐし)による効果と考えることができます。トレーニング後の効果測定時では、歩幅、歩行速度、体重の乗り込みに改善が見られました。股関節の動きをよくするために関節可動域(ROM)エクササイズと個別メニュー(股関節を動かすための筋肉ほぐし)による効果と考えることができます。

 今回のケースは、初期測定(トレーニング前)では立位姿勢も歩行姿勢も実際より、5歳〜10歳程度も年老いているように見えました。動作時に使いたい部分(関節や筋など)が使えてないことや力を出すことが苦手という大きな課題がありました。例えば、立位姿勢は、円背姿勢で太っていないのにお腹が出ているように見える姿勢。歩行動作は、身長の割に歩幅は小さく、背中は曲がり、腕振りは小さい印象を受けました。

 教室では立位姿勢改善のために、肩甲骨の部分や体幹の力の入れ方を中心にトレーニングをしました。歩行動作改善のために、股関節や体重の乗り込みを中心にトレーニングしました。トレーニングを行うことで、円背姿勢の改善、歩幅の拡大、速度の向上、バランス時の姿勢や歩行時の体重移動(乗り込み)の向上が見られることなど、少しずつ改善傾向が見られるようになりました。

 更に、自分でどこに力を入れなければいけないなどを、意識して行えるという大きいな変化が表れました。意識してトレーニングすることで、今まで使えなかった筋などが使えるようになります。その繰り返しが、「無理、無駄のない動き=長く楽に歩ける」に繋がります。まだまだ変化が起き始めたばかりなので、教室での課題を意識してコツコツとトレーニング行い、更に改善・向上を目指していただきたいと思いす。

【参考資料】
※横浜市スポーツ医科学センタースポ医科コラム